日本の旅行業界に常に革新をもたらすH.I.S.の澤田会長が「ダイヤモンド・オンライン」の対談記事に出ていたので読んでみた。その中で澤田会長いわく、「長い目で見れば海外旅行が国の力となる」という。
H.I.S.グループは、格安航空券販売に始まり格安ツアー販売、その後は旅行業以外にも証券会社や航空会社、ハウステンボスの再生、さら現在は「変なホテル」を日本に展開するホテル事業など、旅行業界の革新だけにとどまらない。中には失敗した事業もあったが、常に話題性があり、そのたびに旅行業界が明るくなる。今や大手旅行会社と言えばH.I.S.であり、旧態然としたあの会社やこの会社ではない。
この澤田会長の業績には若いころから着目していた。以前在籍していた会社の社長がドイツ出張に出かけた時、現地のガイドを担当していたのが澤田さんだったという話を聞いたことがあり、この人のチャレンジ・スピリッツが今のH.I.S.をはじめとするグループ各社を形作っているものと思われる。
海外旅行が普通の休日の過ごし方のひとつとなって久しい。だが、近年海外旅行に出かける人、特に若者が少なくなってきている。このことに危機感を覚えるのは当社だけではないと、この記事を読んで思った。
ではなぜ若者は海外旅行に出かけなくなったのか?自分なりに考えてみたい。
若者が海外旅行に行かない理由1.高インフラの日本の現状
以前、筆者が添乗員として同行したツアーに参加したお客様が現地で「日本ほど便利な国はない」とぼやくように言っていた。聞くとそれ以前はあまり海外旅行に出かけることはなく、初めて10日以上の田舎町ばかりをめぐるツアーに参加したとのこと。そしてそのお客様にとってツアー中のさまざまな体験は、一種のカルチャーショックだったようだ。ヨーロッパの田舎町では日本人にとって不便なことがたくさんある。
例えば日本のホテルや旅館のトイレはシャワートイレが当たり前だが、海外ではほぼ見当たらない。また風呂好きの日本人はバスタブ付が高級ホテルのひとつの条件と思っているようだが、そもそも文化・風習でバスタブなど利用しないという国は数えきれないほどある。そんな国に滞在したら、バスタブ付の客室を探すこと自体至難の業だ。日本人が大好きなイタリアでさえ、5つ星ホテルでもシャワーのみの部屋がある。
一方日本ではシャワートイレはかなり普及しており、どの家庭にもバスタブがある(シャワーのみの浴室は沖縄を除きほぼ聞かない)。加えて、かつてはオフィス機器であったパソコンは一般家庭にかなりの率で普及していて、さらに今や1人1台パソコン代わりのスマホを持っている。
食はもはや日本が世界一かもしれない。海外から来た人が注目する日本のB級グルメがあり、世界の有名レストランはこぞって日本に店舗を出店し、あのミシュランが星をつけるレストランの数は今や日本がトップだ。コンビニは歩いて行けるところにあり、都市部ならデリカが充実したスーパーマーケットは選ぶほどある。
娯楽は山のようにある。日本各地に名だたるアミューズメントパークがあり、TVでは次から次へと新しいトレンドを紹介する。
その他書いたらきりがないが、それほど便利で高インフラの日本がすでに出来上がっている時に生まれた今の若者は、あえて海外へ不便をしに出かけるだろうか?
シャワートイレがない時に、どうしたら日本にいる時のように快適に用を足せるのか?といったように、不便なことや物を目の前にしたとき、人はどうやったらそれが自分にとって便利になるか考えるはずだ。しかし、海外を知らない、知る必要がないと思っている若者は、そういった創意工夫が出来なくなるのではないだろうか?
若者が海外旅行に行かない理由2.インターネットの普及
常々このブログで書いている通り、インターネットの世界は留まるところを知らないほど充実している。かつてインターネットでは画像しか見ることが出来なかったが、今は映像は当たりまえ。ネットTVも出来て、地上波放送を見なくても好きな番組を選び放題見ることが出来る。加えて今はVR(バーチャルリアリティ)が普及し始めている。
これらは全て高画質だ。海外の美しい風景は手に取るように目の前に広がり、VRならその場所に立つことが出来る(仮想なのだが)。Google Earthで行きたいところをクリックすれば、かなり細い路地まで映像で入り込むことが出来、それはもはや「旅」と言っても過言ではない。
しかし、そこで匂いや香り、風は感じるか?美味しそうな世界の食事の画像を見ても、その匂い、味まではインターネットでは体験できない(匂いくらいは将来感じることが出来るかもしれないが)。また朝な夕なに感じる異国の町での風やそこで聞こえる町の人達の会話は、やはりその場所に行かなければ体験できないことを今の若者は知っているのか?
海外のホテルではインターネットが通じないホテルは結構ある。またテレビや、客室電話がないホテルもある。そんなホテルはWi-Fi環境などもちろんない。スマホやパソコンに頼り切りの毎日を過ごしていたら、アナログな生活に戻れないと思いきっていはいないだろうか?
そして大事なことは、インターネットの情報はリテラシーがないと正しく読み取ることが出来ないという点だ。だが、海外に出かけて目の前に広がる風景や匂い、風はすべて真実である。
薄れてきた学ぶことへの切迫感
澤田会長は対談記事の中で、若者が海外旅行に行かない理由を「日本が裕福になり、裕福ゆえ学ぶことの切迫感が薄れてきている」ことだといっている。おそらく上記のような理由を総括してそういっているのだろうと自分なりに思う。
現在日本の学力は世界ランキングの中くらい、また大学ランキングも日本のトップの東大が40位くらいを行ったり来たりしている。もし若者が海外で不便や様々な見聞を体験し、自分に足りないものを必死になって調べたり学習したら、また様々な刺激を受けることによりチャレンジ精神が育まれたら、日本人の国際力を含む国の力が今よりも育まれるかもしれない。
澤田会長が言っている海外旅行が国の力なるということはそういうことなのだろう。
海外に仕事やプライベートで出かけると、最近は「お前は中国人か?」と聞かれることが良くある。アジアの人といえばかつては日本人だったが、今は中国人なのだ。それくらい日本人は海外に出かけていない。
今の若者が、次世代の日本を担うことになるのだ。それは海外に出かけて見聞を広めた人なのか、それともそこそこの生活を便利な日本で過ごしてきた人なのか?そう考えたら、日本の将来が少し見えてくる気がする。
今からでも遅くはない。どんな目的でも、何を見るのでもいい、海外へ出かけよう。
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