
新型コロナウイルスの影響により、海外テニスはずっと延期されたままだった2020年。
8月に入り、舞台をシンシナティからニューヨークに移してのウェスタン&サザンオープンから、無観客で再開された。過去の感染症蔓延時のテニストーナメントがどうだったかは知らないが、2020年は確実に忘れ得ぬ特別なシーズンになるだろう。
日本時間の9月14日朝、全米オープンテニス・男子シングルスのファイナルが行われ、オーストリアのD・ティエムのグランドスラム初優勝で幕を閉じた。
この2週間を通じて感じたことを、テニスファンの方々と共有したいと思い、綴ってみた。
コロナ禍でのグランドスラム開催が意味するもの
テニス観戦チケットとパッケージを販売している当社にとっては、この新型コロナウイルスによる影響は甚大だった。
そもそも、海外旅行を専門とする旅行会社はみな同じだ。いまだ各国の出入国は閉鎖されたままであり、旅行会社に限らず全ての海外旅行を希望する人や、このようにトーナメントツアーを転戦する選手及びスタッフも、厳しい状況下にある。
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ATPはWTAと協力し、ウェスタン&サザンオープンをシンシナティではなく、比較的状況が落ち着いているニューヨークで、その後の全米オープンと続けて開催できるよう、スケジュール調整をした。そして、無観客でトーナメントが再開されたのは、周知の通りである。
選手及びスタッフも、様々な制限に苦しんだことだろう。
大会中は、クイーンズ地区からマンハッタンその他への移動は出来ず、限られたエリアでの滞在を余儀なくされた。
長いツアー中は息抜きも必要だろうに、ホテル及び会場の往復だけでこのトーナメントを乗り切ったことは、我々一般のファンからしたら称賛に値する。
選手も全てが参戦するわけではなかった。
ヨーロッパに拠点を置くフェデラーやナダルは、全米オープンへの出場を辞退した。この後開催される新たなクレーシーズンに焦点を合わせたためで、日本よりは格段にPCR検査体制が充実しているニューヨークでもなお、移動による感染危険を避けた形だ。
また、錦織圭も直前に陽性反応があったため、ウェスタン&サザン、全米オープンどちらも出場することができなかった。
コロナウイルスによる影響は、今後しばらく続くだろう。しかし、今回の無観客によるトーナメント再開、そして2週間後の観客入場を予定しての全仏オープンは、確実に今後のテニストーナメントの試金石となるに違いない。
一方、当社のような海外テニス観戦チケットを販売している会社も、対応を迫られた。
3月のインディアンウェルズからずっと、チケットの払い戻しと翌年への振替処理に追われ、収入はないのに支出ばかりが続いた。
だが、状況は確実に変わってきている。そのきっかけが、今回の全米オープンだった。
様々な共感を得た大坂なおみの女子シングルス優勝
2020年の全米オープンが特別であったことは、コロナウイルスによる影響ばかりではない。
アメリカで起きた、アフリカ系アメリカ人への警官の残虐行為に抗議する「Black Lives Matter」の影響は、全世界に広がった。
テニストーナメントが始まる8月にも再び事件があり、アメリカの各スポーツ競技団体が試合をボイコットするまでに至った。
そんな中、ウェスタン&サザンオープンで順調に勝ち続けた大坂なおみが、試合をボイコットしたことにある。
以前から、彼女はSNSでこの問題を発信し続けてきた。そして、このような人権問題に疎い一部の人たちから非難を浴びることになる。
だが、彼女は強かった。
試合のボイコットは、自らを黒人だと表現した上で、この運動を理解してもらうためのものだった。そして、トーナメント主催者も彼女の要求を受け入れ、試合が再開されたことはご存知だろう。
その後始まった全米オープンで、彼女は警官に撃たれた人たちの名前が書かれたマスクを用意した。
決勝まで7枚分だ。
そして、そのマスクは全て使用された。強い意志と実力で、再び全米オープンの決勝を制したのだ。
今や、大坂なおみは全プレーヤーの中で発信力のある選手になった。どの世界にも差別はあってはならない。そのことを、彼女はテニスをもって世界に発信し続けたことは、とても大きい。
同時に、人権問題が表面化されたこのグランドスラムは、やはり特別なものとして歴史に残るだろう。
Next Gen経験者が望む、BIG3のいない男子シングルス決勝
男子シングルスも特別だった。
上述の通り、フェデラーやナダルが辞退し、最初からどのような結果になるかと思われていた。そしてNo.1のジョコビッチは、まさかの失格。ボールパーソンへ放ったボールが、その人の喉元にあたり、故意ではないにせよ失格扱いとなってしまった。
しかし、それでも全米オープンは素晴らしいプレーの連続だった。
マレーと対戦した西岡も、彼の持ち味である粘り強いプレーでフルセットまでもつれ込んだ。いつぞやの全仏オープンで、ベルダスコとの死闘を繰り広げた時を思い出す。
ベスト8に残った選手は、主にNext Genの選手だった。
BIG3不在のトーナメントで、次期テニス界を引っ張っていく選手が魅せるプレーを繰り広げたのは、とても意味が大きいと思う。
そして迎えた男子シングルス決勝。
準決勝で右足首を痛めたD・ティエムから、2セットを先取したA・ズベレフ。このまま3セットで決まってしまうものかと思われたが、そこからのティエムは強かった。
かつてフェデラーが言った、
「グランドスラムの決勝の舞台に立ったものだけが知る世界」
これを知っているのはティエムだけで、ズベレフは今回がグランドスラム初の決勝だ。だが、ティエムも決勝の舞台を経験してはいるけれど、決勝を制したことはない。
タイブレークの連続で迎えたファイナルセットもタイブレークとなった、今回の男子シングルス決勝は、やはりD・ティエムが勝った。
2セットダウンから決勝を制したのは、オープン化以降初めてのことらしい。
大坂なおみが制した女子シングルスも、1セットダウンから優勝することは初めてとのことだという。両シングルスとも、確実に歴史に残る試合だったということだ。
筆者は、テニス評論家でも選手でもないので、詳しいデータを持ち合わせているわけではない。しかし、これらの結果をこのブログに記しておくことで、きっと今後のテニス観戦にも参考となることだろう。
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